家族の悩みをどう解決するか?

2014年 7月 15日

精神医療の現場で注目されている認知療法の日本における第一人者の精神科医、大野裕先生から、うつ病の患者さんがおられるご家族へのアドバイスをお聞きしました。

【プロフィール】

大野裕(おおのゆたか)

1978年慶応大学医学部卒業後、同大学医学部精神神経科学教室、コーネル大学医 学部・ペンシルベニア大学医学部留学、 慶応大学教授を経て、(独)国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長。日 本認知療法学会、日本ポ ジティブ  サイコロジー医学会、日本ストレス学会の理事長等を務め、Academy of Cognitive Therapyの設立フェロー、著書に『こころが  晴れるノート』、『はじめての認知療法』、『精神医療・ 診断の手引き』等。「うつ・不安ネット」 (http://www.cbtjp.net/)監修。

 

家族の悩みは「接し方」「病気の理解」「経済的な問題」

うつ病の患者さんがおられるご家族から伺う悩みというのは主に以下の3つです。

①    患者さんとの接し方

②    病気自体に対する理解と知識

③    経済的な問題

③については夫が働いていて妻や子供がいる場合、働けなくなったらどうしようという心配ですね。

 

実は家族は「自分が何に悩んでいるのか?」に気が付いていないことも

全般的な相談は自治体の相談コーナーなどを利用するのが一番確実ではないでしょうか。保健師に相談にのってもらえますし、医師が相談コーナーを開いていることもあります。

相談する前には、ご家族自身が、何に悩んでいて、何を知りたいか?を整理しておくと良いと思います。うつ病やそれにまつわることでいったい何を知りたいのか。それによって相談先や情報収集の方法が変わってきます。

いま非常に困るのが、悩みを気軽に相談できる場所がないという事です。先ほど自治体の相談コーナーのお話をしましたが、それでも十分とは言えません。そのために、ぎりぎりまでどうすることもできず、最終段階で医療機関を受診することになってしまいます。そうすると薬がたくさん出たり、入院治療が必要になったりします。ですから、そうなる前に相談できる場所ができると良いと思います。そうした場所では、病気の事だけでなく、法律的なことや経済的なことなども気軽に相談できると良いと思います。私は被災地でそうした仕組み作りを手伝っています。こうした動きが、日本全国に広がればと考えています。

 

うつ病の治療は患者本人が取り組む事。家族ができるのはその手助け

よく患者さん本人が病院に行きたがらないという悩みを聞きますが、本人が行きたくないのは仕方がないと思います。うつ病の治療とのかかわり方は患者さんご本人の問題なので、その当事者が動かないと変わってはきません。明らかに大きな問題がある時(自傷他害など)は強制的な入院も必要ですが、そうでなければ、うつ病のときに家族など周りの人は、ご本人の考えを尊重して見守っていただき、どういう手助けが具体的にできるかを考えるようにしてください。

悩みが強くなると、人間関係がぎくしゃくしてきて、自ら他人と距離を置こうとしますし、周りの人たちに対する不信感も出てきます。それだけでなく、責められたと考えたり、どうせ自分の事なんて誰も思ってくれないと考えたりするようになってきます。そんな時には、心配して何か言ったことを逆に受け取って責められたように感じたりもします。そのために周りの人たちは戸惑ってしまいます。そうしたときには、病気がそうさせているのだと考えて見守っていただければと思います。そして、ご本人が助けを求めたときにはすぐに必要な手助けをするようにしてください。

私は家族も治療に参加したほうがいいと思います。ただ、日本ではなかなか進まないですね。そうしたことに慣れていない医師もいますし、医療システム上も、3分診療と言われるように、ゆっくり話を聞いてもらうことが難しい状況です。とはいえ、医師と話したいという家族の気持ちはわかるのですが、大事なのは患者さんご本人がどう思っているかです。医師の立場からすると、ご本人との診察上での話は、ご本人の承諾がないと話せません。ご本人が自分の主治医とご家族が会うのを拒否している場合、会う事もできません。それでも、例えばうつ状態で自ら命を絶つのではないかと心配な状況にあるときや、躁の状態になってお金をどんどん使ってしまうし、周りとのトラブルも出てきたというときなど、相談しなくてはならないこともあります。まずはご本人とよく話し合っていただき、それでも家族が主治医に会うことにご本人が納得されないときには、医師に手紙を書いて心配な状況を伝えても良いでしょう。

 

家族の悩み解決には問題を特定し、解決策をたくさん考えること

全般的にご家族の悩みの解決には、まずはいったい何が問題なのかを特定して解決方法を考えるという認知行動療法の手順が役に立つと思います。これは普段我々が問題に出会った時にいつも自然にやっていることです。ただ、うつ病については初めての経験で知識がなく、戸惑いがあることも影響してなのかご家族の話を聞いていると「何が問題か?」が明確になっていないことが多いように思います。

具体的な問題だけでなく、困難な状況でいろいろと思い悩む中で、自分で問題を大きくしていることがあります。たとえば、以下のような思考について考えてみましょう。

何かに失敗して落ち込む→できないダメな人間だと考える

実際失敗しているのですから、この考えに根拠はあります。だからといって、「できない」と決めつけてしまうことはできません。全部ができていない訳ではないはずです。その中の何ができていないのか、何がダメなのか。具体的に考えずにダメと言ってしまうと辛くなります。問題を解決する力もそがれます。できないことにきちんと目を向けて、これができなかったね、この部分のこの力が足りなかったねと、具体的に考えていってください。その一方で、長所を伸ばすことも同時に考えてください。このように事実を丁寧に見ていくと、自分の力ではどうすることもできないと考えていた問題を解決できるようになってきます。

具体的な問題は解決する必要がありますが、それを大きく考えすぎると解決できる問題でも解決できなくなります。そうしたときには、具体的な問題に目を向けて解決するようにしてください。それが、考えを切り替えるということです。考えを切り替えるというのは、もう一度現実に目を向けて、問題をありのままにとらえ直すということです。そしてその現実に対して、どのように対処するかを考えていくことです。ダメだと決めつけないで、その考えが浮かんだ根拠となる事実を書き出してみます。今度は根拠にはならない事実を書き出す。そうすると、気持ちが軽くなりますし、何が問題かが見えてきて解決策をいろいろと考えられるようになってきます。

認知行動療法では、気持ちが動揺したときの自分の考えに目を向けます。そうした気持ち、つまり感情は、落ち込むか、心配になるか、腹が立つか、うれしくなるかの4つに分けることができます。そうした感情は、それぞれに対応する考え方の影響を受けて生まれてきます。何かを失ったと考えると、気持ちが落ち込みます。危険だと考えると不安になります。ひどいと考えると腹が立ちます。このように、気持ちが動揺したときの考えに目を向けると、気持ちをコントロールできるようになります。

そうした考えは、自分自身、自分と周りの関係、将来の3つの領域で悲観的になっています。ですから、気持ちが動揺したときには、自分がその3つの領域のどこに引っかかっているのか考えてみると問題を整理しやすくなります。そのときに、いま何が起きているかを丁寧に振り返ったり、過去を振り返ってみたりすると、考えすぎている部分が見えてきます。気になっていることが実際に起きるかどうか行動して確かめてみても良いでしょう。

 

問題解決のための認知行動療法は医学的な知識がなくてもできる

認知行動療法というのは医療で行われる治療法の1つですが、目的は自分で自分の気持ちをコントロールするために私たちが日常、普通にやっている方法を使っています。患者さんはもちろん、ご家族もこの方法で気持ちを整理する仕方が身につけば気持ちが軽くなっていきます。認知行動療法は、中高生向けの教育でも使えます。最近は、SNSでのコミュニケーションのトラブルに悩む子が多いようですが、そうしたときにも、認知行動療法の考え方を使えばうまく対処できるようになります。

 

精神科医不足の解決にはチーム医療の導入を

精神科では患者数に比べて医師が足りない状態です。だから診療時間も短くならざるを得ません。これを解決するには医師が治療全体をマネジメントして、看護師や精神保健福祉士、カウンセラーと共に治療を行っていくというチーム医療の導入が必要です。

治療的には、患者さんが「この医師がいい」と思った医師が治療した方が成果が上がります。私が留学したコーネル大学では患者さんが自分と相性の良い医師を選ぶことが出来ました。まず、受診をすると医師が3〜4回面談して、患者さんを理解し、治療法を選択します。それを外来部長の前でプレゼンして主治医が決まり、診療が始まります。そのときに、その医師と合わないなと患者さんが思ったら、変えて欲しいと言って相談することができるのです。

そうしたときに医師を選ぶ基準ですが、私は、①自分との相性が良い、②短時間の面接でも質問に的確に答えてもらえる、③処方される薬の数や量が多すぎない、の3つが大事だと考えています。

 

支える環境が少ないからこそ情報を得られる、相談できる仕組みが必要

うつ病に限らず、治療するときのプレーヤーは患者さんご本人です。治療をする医師はコーチや応援団のような立場で、ご本人が気持ちよくプレー(療養)できるようにするのが役割です。それはご家族も同じで、上手に手助けするようにしてください。現代は競争が激しく、ストレスが強くなっている一方で、困っている人を支える環境が十分ではありません。ですから、リアルな場所でもネットでも、困っている人が気軽に情報を得たり相談したりできる仕組み作りが必要だと考えています。

 

大野写真 プロフィール

大野裕(おおのゆたか)

1978年慶応大学医学部卒業後、同大学医学部精神神経科学教室、コーネル大学医学部・ペンシルベニア大学医学部留学、 慶応大学教授を経て、(独)国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長。日 本認知療法学会、日本ポジティブ  サイコロジー医学会、日本ストレス学会の理事長等を務め、Academy of Cognitive Therapyの設立フェロー、著書に『こころが  晴れるノート』、『はじめての認知療法』、『精神医療・ 診断の手引き』等。「うつ・不安ネット」(http://www.cbtjp.net/)監修。