うつ病に対する法的対応

2014年 6月 10日

企業から従業員のうつ病に関する相談が増えています。弁護士としては「もう少し早く相談に来てくれれば」と思う事が非常に多いです。

うつ病の原因は過労やハラスメントが中心ですが、それらが複合的に影響する場合もあります。理由が複合的だと、企業によってダメージが及ぶ範囲も広くなってしまいます。従業員にとっても企業にとってもうつ病の発症は損失です。個人も企業もうつ病の原因になりうる「労務環境」の問題を早期に見つけ、早期に解決することが重要だと考えます。

うつ病による退職では本人、上司、会社という関係者全員にダメージが及ぶ可能性がある

うつ病の原因が複合的であるという事例としてよくあるのが、過労がミスの増加につながり、ハラスメントを誘発、うつ病の発症につながるというものです。過労だけが原因、ハラスメントだけが原因というわけではありません。

深夜残業、休日出勤が重なって疲れがたまってくると、業務上のミスが増えいくのは必然です。これに対して上司は注意をするのですが、ミスを連発するようになると、注意内容がだんだんときつくなっていきます。その叱責が行きすぎてうつ病を発症し、退職を余儀なくされた後に、労働審判などの裁判になる事案が見受けられます。

この場合の争点は業務内容が過労に当たらないか、上司の指導(注意)はパワハラに当たらないか、退職手続きは労働法が遵守されているかなど多くの点が問題になります。

労働審判などの裁判で上司や会社側の問題と認定されると、会社は和解金や損害賠償金を支払わなければならない上に、会社のイメージも悪化します。上司が降格・減給といった処分を受けることも珍しくありません。何よりも、うつ病を発症した本人は好きで入った会社をやめなければならない上に病気を抱えることになってしまい、関係者全員がダメージを受けることになるのです。

うつ病になる人は、もともと成績が良好で優秀な方が多いように思います。それゆえに、成績が徐々に下降していくという異変が起きたときに、「最近、成績が落ちているぞ!」、ではなく、「何か問題があるのでは?」と気づけたらお互いのダメージを減らすことができたのではないかと思います。それゆえに、企業は本人が困った時には相談できる環境を整えたり、本人や家族は、自分たちで抱え込まず会社以外にも専門家に相談するなど、正しい対応ができる情報収集をすることができれば、と常々思っています。

 パワハラの基準とは?

では、どのようなことがパワハラと認定されるのか?ですが、これについては2012年1月に厚生労働省が以下のように定義をしています。

「同じ職場で働く者に対して職務上の地位や優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」

「職務上の地位や優位性」は上司、先輩などが対象になります。「業務の適正な範囲を超えて」は例えば、業務上の注意なら問題はないのですが、人格に言及して侮辱したり、暴言や机をたたいたりして威嚇する行為がこれにあたります。その他にも、能力や経験からかけ離れていて明らかに無理な業務を与えたり、私的な事に過度に立ち入ることもパワハラに当たります。この厚生労働省の定義は法律ではないので、強制力のあるものではないですが、基準として参考にできるものです。

パワハラに遭ってしまったらまずどこかに相談すること。

仮にパワハラに遭ったり、うつ病で体調が悪くなったとしても、今後のキャリアに影響が出るのではと心配して、なかなか会社に相談しづらいとお聞きすることがあり、それももっともなことだと思います。確かに、会社に相談することによるデメリットはゼロにはならないと思います。ですが、何もしないまま我慢しつづけても状況は改善しません。

心配や不安というのは、先がどうなるから分からないから生まれてくるものです。まずは、我慢し続ける、会社に相談するというそれぞれのパターンでどんなことが起こると想定されるのかという先を知り、それに対して、自分の身を守るためにどんな法律や制度が利用できるのか、どんな手段を取れるのかを知って対策を考えることが必要です。日本には労働者の権利を守る労働法があります。会社が法律を守っていない場合、労働審判などの裁判という手段で訴えることもできます。他にも、会社にはうつ病になった時に使える制度がいろいろあるのですがご存知ない方も多いようです。

分からない事ほど、自己判断をするのではなく、情報収集が必要です。その情報を元に自分の優先順位に従ってどう対応するか決めていくと良いでしょう。正しい情報を得るためにも会社や専門家に相談することが大切です。本人が二の足を踏んでいる場合は、周りの人が相談できるように水を向けてあげたらよいと思います。

  会社を「辞める」と言う前に知っておくべき事

セクハラやパワハラは受けた方にとってはそのことを話すこと自体が苦痛で、なかなか人に言いたくない。それゆえに相談せず自分で抱え込んでしまい、耐えられなくなって自ら退職してしまうというケースを見かけます。うつ病の場合もそうです。自分から辞めると言ってしまった場合、仮に会社に問題があったとしても自主退職という扱いになり、失業保険の給付がすぐに受けられなかったり、すぐ再就職できず空白期間ができたり、「辞める」と口に出しただけでも不利な状況に置かれることがあります。

ただ、仕事を続けたいと思っている場合は、自分で辞めると決める前に、それは本当に解決できない問題なのかを客観的に判断することが必要です。

通常、誰もが自分の職場しか知らないので、その労働環境が当たり前と考え、自己判断であきらめがちですが、日本には、あるべき労働環境を定義する労働法があります。その法律に基づいて自分の置かれた労働環境が当たり前なのか客観的に判断し、当たり前でない場合、自分を守るためにどういう対策を取る事ができるのかを知ることが必要です。会社に相談することもそうですが、会社があてにならない場合は、専門家に相談したりして正しい情報を得るようにしましょう。そうすれば、仕事を辞めなくても済む場合もあります。

うつ病の発症状況別による対応方法

一言でうつ病と言っても、いろんな状況があります。よくご相談を受ける事例からそれぞれ対応方法の注意点について説明します。

①突然出社してこなくなり、本人と連絡が取れない場合

うつ病を発症すると、ある日突然、出社してこなくなり、本人と連絡がとれなくなるこというケースが出てきます。最近、地方から出てきた単身の新人に多いです。単身者の場合、会社は離れて住んでいる家族に連絡をしがちですが、家族といえども法律上は他人です。本人の許可なく家族に状況を知らせるのはプライバシーの問題に発展することもありますので対応には注意が必要になります。客観的に本人の身体・生命に対する危険性が認められ、安否の確認が必要という判断になればOKです。

特に新人の方は発症してから辞めるのが早いという印象を持っています。おそらく休職制度など、病気の時に使える会社の制度を知らないのではないでしょうか。大きな判断をする前にまずは会社にどのような制度があるかを確認しておくことは必要です。

②労働法の適用対象外となる役員がうつ病になった場合

ストレス状態の中を戦い抜いて役員まで上がってきた人が、さらなる重責によりうつ病になるケースも見受けられます。従業員の場合は、労働法に守られるので仮にうつ病になったとしても、解雇制限や様々な社会保障制度が受けることができますが、役員の場合はこの適用を受けません。

それゆえに、会社によっては役員用の保険に入り、役員の万が一の際に生活を成り立たせるために備えているところもありますが、基本的には本人やその家族が対応していかなければならなくなるでしょう。だからこそ、早く対応できるように家族のサポートは大切だと思います。

③裁量労働制で働いている人がうつ病になった場合

クリエイティブだったり専門性の高い仕事で裁量労働制で働いている人は、長時間労働の過労によってうつ病を発症しがちです。裁量労働制だから長時間労働は仕方がないとあきらめがちですが、裁量労働制の適用判断基準は「本当に仕事のやり方を自分で決められるか?」です。もし、実態を調べたらそうではない場合、会社に責任を問う事ができます。  普段から自分の勤務時間を記録しておく、また、家族が出社時間と帰宅時間を記録しておくことも証拠の提示のために有効です。

④相続・離婚による人間関係の悪化によるうつ病

これまで仕事が原因のうつ病についてお話してきましたが、仕事を辞めた後でも相続・離婚等による人間関係の悪化が引き金になってうつ病を発症するというケースも見受けられます。うつ病というのは仕事だけでなくどこからやってくるかわからないと感じます。今まで述べてきた仕事上の早期発見にも関係しますが、普段から家族の良い関係作りが必要なのかなと思います。

どんな場合もまず分かる人に相談する事

いろんな案件にかかわった経験から、うつ病やそれから発生する問題は、とにかく早く気が付いて、正しい情報を得て、対応していくことが大切と感じています。特に労務問題によるうつ病の気づきには2つの方法があると考えています。

①    会社による気づき

上司や産業になどによる面談や細やかなコミュニケーションを取ること。

②    家族による気づき

どんな環境でどんな仕事をしているのか。趣味を楽しめるくらいの余力があるかなどのコミュニケーションを普段から取っておくこと。

しかしながら、うつ病かもと思っても本人はなかなか病院に行きたがらないし(それももっともな気持ちだと思います)、家族もそれに対してどう対応したらいいか悩むという話を聞きます。それならば、病気という切り口ではなく、敢えて法的問題(過労、ハラスメント)としてアプローチするのも早期対応の1つの方法ではないかと思います。

状況の改善のためには、まず、現状(労務環境)を把握して、改善する余地があれば改善し、何も変わらないのであれば、ずるずる行くよりも「次に移る」ことも一つの判断です。それらの判断を自分の希望にもっとも合った形にするためにも、正しい情報に基づいた客観的判断が大切です。

もめたら初めて駆け込むのではなく、あらかじめ対策を立てられるよう早めに相談するようにした方が良いでしょう。本人が相談したがらない場合は、まずは、家族や身近な人が相談して情報を得て、次に本人が相談できるように持っていけばよいと思います。

相談する専門家の選び方

例えば、弁護士の場合は、どれくらいの経験、実績があるかを本人に聞いて確かめることです。その上で、ご自分のこうしたいという方向性(会社と強く戦いたいとか、なるべく温和に解決したいとか)と一致するかどうかが大切だと思います。

長い付き合いになりますから、お互い分からないことをきちんと聞き、納得できる回答を得られるなど、コミュニケーションを取れるという事も大切だと思います。

相談料について心配される方もおられますが、今は弁護士も相談料は自由に決められるようになり、弁護士や事務所によって違いますのでそれぞれ確認する必要があります。

今はストレスや悩みがあるとお金を払ってマッサージに行くなどしてリフレッシュする方も多いと思いますが、弁護士に話をして、正しい情報や対処方法のアドバイスを聴くことも悩みというストレスを癒すという意味で同じように効果的だと思います。そんな感じでまずは気軽に聞いてみてはどうでしょうか。

真法律会計事務所
パートナー弁護士 三谷 和久
http://www.makotolaw.com/

【経歴】
平成15年   東京大学法学部卒業
平成16年   最高裁判所司法研修所入所(第58期)
平成17年   弁護士登録
平成17年   TMI総合法律事務所入所
平成18年   虎ノ門カレッジ法律事務所入所
平成22年   真法律会計事務所入所
【公職】
平成22年〜 東京簡易裁判所司法委員(現職)

【取扱分野】
M&A、民事再生等を含む企業案件から、離婚、相続等の個人案件まで、
幅広く取り扱っています。
特に、労務問題は、企業サイド、従業員サイドの双方の立場で多数の案件を
取り扱ってきました。