澤登和夫 (さわと かずお) うつ専門カウンセラー インタビュー

2014年 5月 28日

うつ病の経験を生かしてうつ専門カウンセラーとして活躍なさっている澤登和夫さんに、「接し方が分からない」という家族の悩みに対して患者視点から家族へのアドバイスを伺いました。

うつ病を発症したきっかけ

サラリーマン時代、27歳の時に会社を代表して、関連会社への出向が決まりました。時を同じくして、4年間付き合っていた女性と結婚。栄転と結婚が重なり、人生順風満帆だと思っていました。しかし、その後4か月で一気に体調が悪くなって内科を受診、精神科を紹介されてうつ病という診断を受けました。
最初は左胸が痛かったり、本や新聞を読んでも集中できなくて頭に入ってこないという変化がでてきました。仕事上、英語のやり取りが多かったのですが、辞書を引くのが億劫になったり、仕事のスピードが遅くなったり、脂汗がでてきて「これはちょっとおかしいな」と思うようになりました。当時は仕事がとにかく忙しかったのです。前任の人でもタクシー帰りが当たり前の仕事を経験のない私がいきなり引き継ぎました。仕事量が多い上に、内容もすぐには理解できませんでした。最初は頑張れば何とかなるかと考えていましたが、2週間たっても一か月たっても見通しが立たない。どんどん体の症状がでてきて、「頑張ってもだめかもしれない」、「これは体ではなく心の病気かも」と、うすうす感じてきました。精神科に行った頃には眠れない、家からも出られない状態になっていて、医師からは典型的なうつ病と言われました。

うつ病と診断されたことは会社にはすぐには言えませんでした。出向している身だったので、休職になったら両方の会社に迷惑がかかると思ったのです。医師に相談して「まずは薬を飲みながら様子を見ましょう」ということになりました。

実は家族にも最初は言えませんでした。当時は新婚だったので、自分のせいで一般的な新婚の幸せを壊したくなくて、うつ病っぽい様子や暗そうな様子を彼女に見せたくありませんでした。だから疲れていても元気でいるふりをして、週末には一緒に外出したり普段と変わらないようにしていました。本当は心身つらかったので、結構きつかったです。彼女も何となく私の様子がおかしいことには気づいていたようなのですが、彼女も仕事をしていたのであまり気に掛ける余裕がなかったんだと思います。つらいのにつらいと言えない、居場所がない感じで苦しかったですね。

結局、会社にも家族にも診断されて1か月くらいしてから、初めて自分がうつ病であることを伝えました。思い返すと最初に症状が出てから5年半の間で、うつ状態が5回、躁状態が2回あり、調子がいい時もありました。そのような波はありましたが、出向していた3年間は、うつ状態がひどくても休むことはありませんでした。一度休んだらみんなに置いてけぼりにされてしまう、もう出世できないと思ってしまったのです。家族はなかなか病気に関して理解してくれなくてつらかったですね。温かく見守って、自分のペースでいさせて欲しかったなぁって思います。

「見守ってくれている」と、どんな時に感じますか?

自分のことを分かろうとしてくれている、自分に関心を持ってくれている、そう感じるときです。
うつ病に限らず、基本的に自分以外の人の気持ちなんて誰もわからないですよね。少なくとも、聞かなければわからない。だから「何がしんどいのか、どうしたら楽なのか教えて」って聞いてみて欲しい。そうすれば本人は関心をもってくれていると安心できるし、本人から直接聞くことで周りもどうしたらよいか接し方も分かりやすくなりますよね。よく「寄り添う」と言いますが、それは「わかろうとする」ことかなと私は思います。

接し方について、具合が悪そうな時に話しかけても大丈夫なのでしょうか?

人それぞれなので一概に言えませんが、私の場合は何も言われないよりも、適度に話しかけてくれたほうが関心を持ってくれているのがわかりうれしかったです。体調にもよりますが、ちょこっとおせっかいくらいでいいのではと思います。
本人が「〜したい」というのが少なくなるのがうつ病の特徴でもあるのですが、「〜したい」が少し出てきた時、調子の良さそうな時に「あなたがしんどい時には、どう対応してほしい?今のうちに教えて」と、聞いておくのもいいと思います。苦しいときに本人が「何でも言ってもいいんだ」と思えるように、ちょっと調子がいいときに門戸を広げておくことが大切だと思います。本人もうつの時は周りの反応に敏感になっていて、腫物に触るようにされていると何となく気づいてしまうんですよね。そうすると信頼感も低下し言いたい事も言いづらくなるし、よくないですよね。

本人に対して家族としての意見をあまり言わない方が良いのでしょうか?

基本的には本人の気持ちを受け止めた上であれば、言ってもいいと思います。タイミングと言い方も大事ですよね。「普通はこうだ」とか「絶対ああだ」とか一般的な意見としてではなく、「私はこう思うよ」と、あくまでひとつの意見として伝えてほしいです。本当にしんどい時にはきつい時もありますが、意見を言ってもらえるのはうれしいこともあります。
また、受け止めることはそれなりにパワーを使いますが、ご家族の方も受け止めるパワーがない時もあると思います。そんな時には「本人のことをしっかり受け止めたとしても、自分が元気でいられそうか?」を基準にして、無理をしないである程度距離を保つことも、ときに必要ではないでしょうか。

先のことが不安になって、いろいろと口出しをしたくなってしまいます。

いろいろと心配になったり不安になったりするのは当然だと思います。その上で本人を信じてみてほしいと思います。周りのサポートは確かに大切ですが、うつ病と直接向き合うのは本人なので、できることは限られていると認識することも大切だと思います。過去の接し方の責任を感じすぎる必要もありません。本人が自分のペースで良くなっていくことを信じ、一緒にいて、見守る、そんな前提でコミュニケーションをとってくれるとうれしいです。

接し方について、自分なりに努力しているつもりなのですが、良い対応ができているのか分かりません。

うつ病はだれでも波があります。一日の中でも波があったりするのですが、本人もうまく自分の状態を表現できないし、周りも分からないと思います。だから、本人に聞かないでいろいろ決めつけないで欲しいと思います。たとえば調子が良い時、外出した方がいいと本人に勧めたくなることもあると思います。ですが、本人はそれがいいと頭ではわかっていても踏み出せない時もあります。本人が自分で「やりたい」と思って行動を起こし、実際に「やれた」と思えることは、大きな自信につながります。周りが決めつけてせかさない方がよいと思います。

今、どういう状態でどう対応したらいいか分からなくて悩んでいる方は、本人にどうしたらいいか答えを教えてもらう方法もあります。たとえば私の知り合いは、家族とのコミュニケーションにカードを使っています。カードは青・黄・赤の3色で、青は「調子がいいよ」、黄は「いまいち」赤は「調子が悪いから、そっとしておいて」というような感じです。状態に合わせて、そのカードをベッドサイドに出しておくのです。そうすれば家族も対応がしやすいですよね。こういうキャッチボールが大切だと思います。緩い球がきたら緩い球で返し、早い球がきたら早い球で返す。このように家族が本人にできるだけ合わせる事で、理解と信頼と安心が生まれると思います。

家族の方に一番伝えたいことは何ですか?

ご家族としてそばにいても、どうすることもできないもどかしさというのは本当に大変だと思います。でもまずは、本人の力を信じてみてほしいと思います。あえて言えば、うつ病の本人と接することで逆に得られるものもあると思います。例えば、コミュニケーションで本当に大事なことを教えてくれることもあります。大変なうつ病ではあるけれど、「うつ病と向き合いながら一緒に成長していこう」、という気持ちで接していくことが私は大事だと思います。

プロフィール写真(カウンセリング)
澤登和夫 (さわと かずお)

うつ専門カウンセラー、精神保健福祉士、株式会社ありがトン代表。
睡眠健康指導士上級、千葉県柏市男女共同参画推進審議会副委員長。

1974年千葉県生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。会社員時代に過労と心労がきっかけでうつ病と診断され、以後5年半にわたり重度のうつ生活を送る。体もむしばまれ難病により大腸全摘出、マンションの最上階から飛び降りたことも。心身ともに乗り越えた後、「以前の自分と同じような人の力になりたい」と、カウンセラーの道を歩み始める。以後5年間、人生をやめたいと思う人たちと向きあい、何ができるか一緒に考えている。
現在では、カウンセラーとして年間100人以上のうつの人と向きあう一方、講演を通じて、現代の「うつ蔓延社会」を「うつ円満社会」へ変えるための啓蒙活動を続けている。
「NHKニュースおはよう日本」、「生活ほっとモーニング」、「日本の、これから」などNHKに9回登場。日本経済新聞、朝日新聞、中日(東京)新聞、毎日フォーラムなど、多数の新聞や雑誌でも活動が取り上げられている。
自殺対策支援センターライフリンク元職員。ニックネームの「さわとん」は、多くの人から親しみを持って呼ばれている。趣味は歌を歌うことで、NHKのど自慢に出場したこともある。

著書:「人生をやめたいと思ったとき読む本」(東洋経済新報社)、「自殺者3万人を救え!―“命”みんなで守る社会戦略」(NHK出版:共著)、「ありがトン」(サンマーク出版)。

株式会社ありがトンホームページ:http://www.arigaton.com/
毎日更新ブログ(うつ専門カウンセラーさわとんの生きる力がわいてくるメッセージ):http://ameblo.jp/sawaton/