同じ病気でも「考え方」の癖・特性はそれぞれ
Sさん:多分、僕の思考の特性だと思うんですが、自分で勝手に問題を作り出しちゃうんですよね。仕事上のシステムについて、ほんの軽微な、数千分の一の確率で起こるかな?っていうことまで、ついつい考えちゃう。「これを直さなきゃ」っていう正義感にかられて。
そういうことをしてると、いつまでたっても仕事が終わらないので、ずーっと疲れてますし、その問題が終わったと思っても、次の仕事の問題を探してしまう。さっきの「首の後ろのヤツ」が探そうとしたり。
宮原:昔から、頭が勝手に働いちゃうんですね。
Sさん:夢の中でも勝手に考えちゃうんです。いつもじゃないですけど、仕事に根をつめると、夢の中にまでプログラムが出てきて考えることから逃れられなくて、悪夢を見た時のように目覚めてしまう、っていうのが一週間くらい続いたりもしますね。
多分、普通の人以上に考え続けちゃって、さらに必要以上に深刻に考えちゃうんですよね。完璧主義とかではなく、単に不安症なんでしょうね。今もそんな感じなので、休職しなかったのは、そういう特性も絡んでるのかもしれません。
宮原:なるほど、「だからこそ、休職しなかったかも」と。僕はそういった類いの思考のクセみたいなものは全然無いので、面白いというか興味深いお話ですね。
当時と今の「働く事」に対する変化
宮原:うつ病になった前後とそれから時間が経った今と、「働く」ということに対して、Sさんのなかで何か変化はありますか?『俺の労働観』みたいな(笑)
Sさん:当時と比べて変わったのは、選択肢が少し増えたかなぁとは思います。
例えば、先日の雪の日※なら、「雪なんだから、休めばいいじゃん」と思いましたけど、当時は、「休んじゃいけない。電車乗らないと」しか無かったです。行くのが当然のことで。
※ このお話をした数日前、関東圏では珍しい大雪により、交通網が大きく乱れました
そういった選択肢が増えたのかな、と。当時よりも少し適当に考えれるようにもなったのかもしれません。昔の方が「行かねば・行くべき」という、『べき思考』がとても強かったです。今も、べき思考が完全に無くなったわけではありませんが。
宮原:そうなれた要因はなんだと思いますか?
Sさん:一番大きなきっかけは、立場だと思います。今は社員ではなく、フリーランスとして企業と関わっているのですが、心のどこかで「社員じゃないし」と思うことで昔には無かった適当さが生まれたのかな、と。それを、ある意味心の逃げ場にできているんだと思います。
昔じゃあり得なかった10分くらいな地味な遅刻とかもしています(笑)。といっても、罪悪感は生まれるので勝手をやりすぎるということもありませんが。
宮原:そのほかに、何か以前との変化という点で思うことはありますか?
Sさん:多少ですが、自信はついたかもしれません。例えば、フリーランスなのでクライアントに報酬交渉をするのですが、以前はとても怖かったんです。その怖さから、本来の半分くらいの価格で話を進めてしまったこともあって。それが最近は言えるようになってきたので、変なストレスは少なくなってきたのかな、と思います。
同様に、職場への要望も少しずつ言えるようになってきたので、ひとりで問題を抱えて困ることも以前よりは減ってきました。
宮原:うつ病と診断された当時は、社内の人に殆ど言わなかったということですが、今だったらどうですか?
Sさん:うつ病を回避することはできなかったとしても、今だったら言えるかもなぁ。
宮原:当時と今で、周囲の方から何かSさんが変わったと言われたことはありますか?
Sさん:それはまだ無いですね(笑)。言わないだけかもしれないけど。でも自分的には、以前よりも関係者との会話が増えた気がする。
宮原:コミュニケーションが増えたんですか?
Sさん:そうですね。それと、僕はずっと人間関係において、どこかで勝手に「僕は下なんだ」って位置付けてたんです。友達とかに対してもです。そういった引け目が以前よりも減ったかな。
その点では、本当に自分はカッコ悪い生き方してたな、と思います。「みんななんて大人なんだろう」「かっこよく生きてるなぁ」「落ち着いて淡々と働いてるなぁ」って思っていましたから。
最後に
いかがでしたでしょうか?
冒頭で、『本人がどういったことを考え、何を感じているのか。それをすぐに言葉にはしれくれない・できないかもしれませんが、「うつ病だから○○」と決めつけずそっと耳を傾けて』といったことを言いました。
読んで頂きました僕とSさんの会話はテキストにしているので、互いにペラペラと話しているように感じるかもしれませんが、実際は2人ともかなりじっくり考え少しずつ言葉にしていく、という流れでした。
うつ病になった頃からある程度時間が経過し冷静に当時を振り返った人間でも、容易に言葉にできないもどかしさがあるということを最後にお伝えしつつ、ゆっくりじっくり一歩一歩お互いに歩み寄って理解を深めていってもらえればと思います。

<執筆者プロフィール>
宮原直孝
一般社団法人いっぱんじん連合 代表理事
1984年 長野生まれ。
会社員時代の09年 7月頃〜11年1月頃までうつ病により休職、その後退職。
転職活動がうまくいかない現実逃避から何となく勢いで当法人を設立。
現在はヘラヘラしながら、
・深夜に都内を集団で歩く「深夜徘徊イベント」
・ただダラダラとダベるだけの「ダベPartner活動」
・出来る事であれば何でもする「代表デリバリーサービス 〜心が弱った時に、都合の良い男〜」
などを行う。
抱えている柴犬は、よく出来ていますが木彫りです。