第十四回精神科医と社会保険労務士に聞いてみた「仕事・受験など、どうしてもがんばらないといけない大事なとき、うつ病になったらどうすればよいか?」

2018年 3月 19日

こんにちは、pint storyうつ病ライターの宮原です。うつ病にまつわる素朴な疑問を専門家に回答していただく「聞いてみた」シリーズ、今回は精神科医と社会保険労務士の方にこんな疑問を聞いてみました。

『どうしてもがんばらないといけないときにうつ病になってしまった場合、どうすればよいのか?!』

例えば学生の場合は受験、または国家資格試験などが該当するのではないでしょうか。年に一度しかないチャンスを、そうやすやすと逃すことはできないのは当然のことです。

社会人であれば、大きなプロジェクトの中心メンバーに選ばれた場合、大変に苦労した担当案件があと少しでクロージングできそうなタイミング、昇進・昇格がかかった面接試験などでしょうか。

 

今回のテーマはそれまでの生活と異なる、大きな出来事の最中に突然うつ病になった場合に焦点をあてています。当事者の方はもちろんのこと、ご家族、まだうつ病でない方も今後判断を迫られる際の参考にぜひご覧ください。

「うつ病の場合はわずかな休養では回復が難しい」事実

Q1.治療を続けながら業務や勉強を継続するのと、短期間でも休職や休学するのと、どちらの方が良いのでしょうか?

病院で出してもらった薬を飲みながらがんばるか、一旦ストップし療養に集中するか。とても判断が難しい悩みですが、精神科医の先生からはどういった回答となるでしょうか?

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<精神科医による回答>

これは置かれている状況とご本人の状態によるので一概にはいえません。多忙な時期が短期間で病状がそれほど悪くなければ薬を飲みながら継続していいでしょうし、多忙な時期が続き病状が悪いようであれば休むべきでしょう。

休養の期間について、健康な状態であればわずかな休養でもある程度回復すると思いますが、うつ病の場合はわずかな休養では回復が見込まれませんのでしっかりと休む必要があります。

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症状自体の深刻度や、当事者の環境により最適な判断は変化するので、一概に答えられないとのことですが、重要のポイントは終盤箇所の、

「わずかな休養では回復が見込まれませんのでしっかりと休む必要があります」

ではないでしょうか。まずこの認識を持つことが、うつ病とご自身の生活と向き合ううえでのスタートとなりそうです。

続けるか止まるかの判断は、しっかりとした現状把握で見定める

Q2.現在の状況を継続するかうつ病の治療に専念するか、判断基準はありますか?

社会人の場合は業務から降りるか継続するか、学生の場合は受験・資格試験を控えて来年度へ見送るか挑戦するか。この判断は、いつ、どうやってすればよいのでしょうか。

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<精神科医による回答>

本人の状態がどうなのか、それが本人にとってどれほどのストレスなのか、その状況がその後どれほどの期間続くのか、といったことによります。

これらの点を総合的に判断し、治療を行いながらでも乗り切れそうであれば継続という判断になりますし、乗り切ることが難しそうであれば業務から降りる、または試験等を見送るという判断になります。

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「状態」「ストレス具合」「いつまで続くのか」などから総合的に判断すべきとのことですが、体調がすぐれないなか冷静に把握し判断するのは難しいと思います。

例えば、状態を把握するためには、医師への相談や家族など身近な人に客観的な意見を求めることもよいでしょう。仕事がいつまで続くのか、改めて上司や同僚に相談・確認により想像と違う事実が判明することもあるかもしれません。焦らず、総合的な観点から判断するよう努めましょう。

食事・睡眠・情報共有で、悪化を防ぐ

Q3.休まない方向へ決断した際は、どういった行動を取るべきでしょうか?

休職・休学をしないと決断した場合、心身が苦しい状態は続きます。すこしでも身体を楽にするため、どういった行動を取れば負担を減らすことに繋がるか聞いてみました。

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<精神科医による回答>

休職・休学をしない場合は、仕事や勉強の負荷を軽減し、しっかりと食事、睡眠、休養をとり、状態を悪化させないことが重要です。職場や家族に自分の体調をできるだけ伝えて、サポートしてもらうことも必要でしょう。

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Q1の回答にあるとおり、うつ病から回復するためにはしっかりとした休養が必要になりますが、現在以上の悪化を防ぐ方法として、「食事」「睡眠」「周囲への相談・サポートの要請」などが挙げられます。

状況によっては、「忙しくて食事と睡眠の時間をいま以上にとるのは難しい」「周囲にいえない。いっても変わらない」など、すべてを満たすことは叶わないかもしれません。

しかし、わずかでも改善できる余地があれば、ぜひ行動にうつしてみてください。

治療にともなう副作用の可能性

Q4.うつ病への薬による治療において、副作用として集中力の低下や眠気などが起こる場合はあるのでしょうか?

うつ病の治療では、抗うつ薬や向精神薬、抗不安薬といった複数の種類の薬が処方される場合があります。治療のために飲んだ薬の副作用が、別の苦しみが生まれる要因になるのか、確認のため聞いてみました。

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<精神科医による回答>

薬によってはあり得ます。例えば、不安感が強い場合には落ち着く薬が処方されますが、そのような薬では集中力の低下や眠気などがみられる可能性があります。これは効果でもあり副作用でもあるといえます。

現在はさまざまな薬がありそのような副作用がほとんどない薬もありますので、副作用に困るようであれば主治医の先生に相談しましょう。

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相性によっては副作用が起こる可能性もあるとのことです。治療のため、がんばるために飲んだ薬でつらくなるのは苦しいことです。もし副作用があらわれた際は、改善のため主治医に報告・相談を行うことを忘れないようにしましょう。

不当な評価、不明瞭な処分があれば弁護士に相談を

Q5.大きな業務のなか、うつ病により急遽途中脱退した場合に処分が起こる可能性はありますか?

続いては会社員を対象とした質問です。休職などプロジェクトや担当業務からの途中脱退を考えると、「周囲に迷惑をかけてしまう」など罪悪感による悩み以外にも、「人事評価が不当に下がる」「減給または降格」といった対処をうける心配から恐怖感を抱えてしまう方もいるのではないでしょうか。

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<社会保険労務士による回答>

私傷病により、業務遂行ができなくなった場合等は、就業規則および人事評価規程等に基づき、人事評価が下がったりする可能性はあります。その処分が合理性があるかどうか等については、裁判等で判断されることとなります。

私傷病ではなく業務が原因ということですと、前段の合理性の部分の判断が異なってくるものと考えられます。詳細は、弁護士等にご相談されることをお勧めします。
※私傷病・・・労働者のけがや病気のうち、業務に起因しないもの
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どういった規模・社風の企業であろうと、明確かつ納得できる対応をされるとは限りません。もしもの場合は、社会のルールの専門家である弁護士に相談する手段もあることを覚えておいてください。

また、厚生労働省は「総合労働相談コーナー」にて職場で起こるあらゆる問題への相談・情報提供を対応しています。

▷ http://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

窓口は全国の都道府県労働局か労働基準監督署あわせて380箇所に設置され、相談は予約不要・利用無料、対面または電話応対可能となっています。

アドバイスよりも、現状把握と専門家への橋渡しを

Q6.身近な人が不調を感じながら、仕事や勉強などを継続すべきか悩んでいる場合、どういった接し方をするのがよいでしょうか?

最後の質問になりますが、当事者の方ではなく、家族・友人・同僚など周囲にいる身近な方が、どういった助言・サポート方法をとるべきか聞きました。

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<精神科医による回答>

本人の状態を聞いて、本人の辛い状況に共感してあげるような声掛けができるとよいでしょう。がんばるべきか、仕事や勉強を中断し休むべきかといった判断は本人の状態によりますので、安易にアドバイスをすることは避けた方がよいでしょう。

職場であれば産業保健スタッフ、学生であれば保健スタッフに本人に相談するよう勧め、また状態がよくないようであれば早めに医療機関を受診することを勧めましょう。

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身近にいるからこそ、当事者の不調や異変に気づく場合がありますし、仕事への責任感や受験への意気込み・情熱を理解している場合もあるでしょう。ついアドバイスをしたくなりますが、グッと堪え、専門機関への橋渡し役となるよう行動しましょう。

ひとりで判断せず、頼るべき相手と情報を集めることから始めよう

今回このテーマにしたきっかけは、僕がうつ病だったころお世話になった方から聞いた話を思い出したことです。

僕は新卒入社3年目にうつ病となり休職・退職と経験しました。休職期間中、人事部の部長さんから3ヶ月に1度ほどのペースで「宮原、最近調子どう?お茶しない?」と、突然お茶に誘われ、小一時間ほど雑談をする機会を重ねました。

待ち合わせは僕の自宅から徒歩数分にある最寄り駅のなかの喫茶店やファミレスなど足を運びやすい場所だったこともあり、いそいそと出向きました。本当に些細なたわいもない話ができ、嬉しさと楽しさを感じる貴重な時間でした(体調が悪いときは延期することもありましたが)。

 

そうした何度目かのお茶で、部長さんがいいました。

「何年も前だが、実は俺もうつ病だった。ただ課長になったばかりのタイミングだったし部署では先に体調を崩し休職中の部下もいたから、自分は抜けられないと思って休職はしなかった。平日は薬を飲みながらなんとか働き、土日はずっと布団のなかで休み続ける生活を続けた」

それまで何度もお茶をしたのに、うつ病だったことを隠していたこと。うつ病経験のある人と初めて出会ったこと。突然のさらっとカミングアウトという流れなどに衝撃を受け、このときの話はいまだに印象深く覚えています。そしてあとで気になったのは、うつ病だったことよりも、それにつづく「休職はしなかった」という点です。

 

うつ病のつらさを体験した僕には、それでも休まないことを選択するような立場や状況に震えつつ、「いまだけ、あとすこしだけがんばりたい」タイミングでどうするべきだったのか、判断のヒントとなる情報があればと思い今回のテーマにしました。

精神科医と社会保険労務士からの回答は、一貫して「安易にひとりで決断しないこと」「専門家や周囲の人間に頼ること」が共通していると感じました。うつ病と向き合いながら、人生の岐路ともいえる大きな出来事をひとりで抱え判断することは避けるべきです。そして、自分の周囲を見渡し情報共有する相手を見つけることから始めましょう。

 宮原直孝 一般社団法人いっぱんじん連合 代表理事 1984年 長野生まれ。 会社員時代の09年 7月頃〜11年1月頃までうつ病により休職、その後退職。 転職活動がうまくいかない現実逃避から何となく勢いで当法人を設立。 現在はヘラヘラしながら、 ・深夜に都内を集団で歩く「深夜徘徊イベント」 ・ただダラダラとダベるだけの「ダベPartner活動」 ・出来る事であれば何でもする「代表デリバリーサービス 〜心が弱った時に、都合の良い男〜」 などを行う。 抱えている柴犬は、よく出来ていますが木彫りです。

<執筆者プロフィール>
宮原直孝
一般社団法人いっぱんじん連合 代表理事
1984年 長野生まれ。
会社員時代の09年 7月頃〜11年1月頃までうつ病により休職、その後退職。
転職活動がうまくいかない現実逃避から何となく勢いで当法人を設立。
ストレス解消を目的の一環に、
・深夜帯に東京都内を集団でのんびりダラダラと歩く「深夜徘徊イベント」
・東京で深夜徘徊したい方同士を紹介、仲介する無料マッチングサービス「深夜徘徊.match」
などの運営を行う。
抱えている柴犬は、よく出来ていますが木彫りです。

Categories: 用語集

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