こんにちは、pint storyうつ病ライターの宮原です。うつ病に関する素朴な疑問を専門家に答えてもらう「聞いてみた」シリーズをお届けしています。
今回は、『結婚しているうつ病患者にとって、安心して休息できる環境づくり』をテーマに精神科医に答えてもらいました。
うつ病と付き合うのはどんな状況の方でも大変だと思いますが、結婚生活を送りながらの治療は、独身で一人暮らしという方とは違った悩みや苦しみがうつ病になった当事者・パートナー共にあるのではないでしょうか。
僕自身、結婚直前の彼女と同棲開始したタイミングにうつ病になり、休職中に結婚し、その後離婚しました。その結婚生活のなかで、うつ病をパートナーとの結婚生活を送る不安や悩みを体感しました。
そんな実体験もふまえて、精神科医に、以下4点を質問してみました。
Q1. 結婚はうつ病治療にとって、メリット・デメリットのどちらなのか?
Q2. パートナーに対して感じる焦りへの対処法は?
Q3. 日常生活で苦痛を感じた場合の対処法は?
Q4. 体調が悪い時期、パートナーにうつ病を理解してもらうには?
回答内容が、当事者・パートナーの方それぞれに少しでも症状悪化を防ぎ心休まる生活環境の参考になれば嬉しいです。
結婚生活で、不安とストレスが減り安心感が増せばメリット、ストレスが増せばデメリットになる
Q1.結婚はうつ病治療にとって、メリット・デメリットのどちらなのか?
うつ病患者にとって、そもそも結婚はメリットとデメリット、どちらになるのでしょうか。結婚生活を安心して送るため、まず聞いてみました。
僕がうつ病のなか結婚したのは、メリット・デメリットを考えてのことでなく、すでに両親の顔合わせをして婚姻届提出や結婚式の日程も決まっている流れのなか、結婚を延期する選択肢の発想がなかったからです。
しかし、療養期間が長引くにつれてサポートに疲れていく妻の様子から自分を責めて、ストレスが増すことにつながりました。結果的に、主治医の勧めもあり一時的に別居をして、夫婦で生活していた自宅から他県にある僕の実家へと移った時期もありました。
「もし、結婚を一旦延期していたらどうなっていたか」
「もし、もっと早く結婚生活を別々にして休んでいたら、治るまでの期間と夫婦関係は違った結果になっていたんじゃないか」
離婚からしばらくして、こんな「もしも」を想像することがありました。
うつ病患者がパートナーと結婚生活をおくるのは、メリット・デメリットのどちらなのでしょうか?
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<精神科医による回答>
パートナーと一緒に過ごすことによって不安感が減り、安心感が増すようであれば、本人にとってはメリットです。また家事の負担が減るなど、本人のストレスが軽減されるようであれば、これもメリットです。一方、結婚生活によってストレスが増す点があるとすれば、これはデメリットです。
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回答から、うつ病患者にとって結婚のメリット・デメリットは、パートナーとの関係性や生活習慣、また本人の感じ方によって千差万別なのだと感じました。
思い返すと、僕が結婚をうつ病治療のメリットと感じたのは、「ひとりじゃない」と思えたときです。
症状のせいで理由もなく悲しくなり涙がとまらなくなり、布団に包まっている僕のもとに来た妻が、「よしよし」といいながら背中をさすってくれたこと。情けない自分を責める言葉を口にしたとき、笑顔で「まぁ、大丈夫でしょ!」と言ってくれたこと。
回答にあるメリット「安心感が増す」のとおり、とつぜん襲ってくる大きな不安感を安心感でカバーしてくれていました。
デメリットでいえば、「一緒にいてくれる妻のために何もしてあげられない」と思い、焦ってしまうキッカケになることでした。
療養期間の多くは、昼間を家で過ごしていても掃除や洗濯など家事をする余裕はなく、妻に任せっきりでした。会社員で働いていた妻の仕事関係の話は、僕が休職した職場を連想しストレスにつながるので聞けませんでした。
働いていないうえに、ちょっとした手伝いも妻にできない自分にガッカリしました。そして、「はやく、どうにかしないと」を気持ちだけが焦るようになります。
うつ病によって起こる症状や感情は、そのときどきで変わっていきます。診察のたび薬の効き目や症状の変化を医師に相談し処方薬を調整するように、結婚生活の過ごし方が、うつ病治療のメリットになっているか振り返る努力が必要かもしれません。
うつ病からの回復方法をパートナーが理解することが、治療の近道
Q2.パートナーに対して感じる焦りへの対処法は?
うつ病患者はパートナーにたいして、罪悪感や引け目から、早く治さなければと焦りを感じる場合もあると思います。安心してうつ病治療するために、確認しておきたい内容です。
僕は、結婚するまで意識していませんでしたが「夫は家庭の大黒柱。男はしっかり頼れる存在であるべき」という価値観を持っていたようで、休職してから働きもせず休んでいる自分の「ダメ夫」っぷりから、「どうしよう、どうすればいいんだ」という焦りが頭のなかでぐるぐる回っていました。
焦りを感じるのは、うつ病の症状のひとつです。パートナーの言動は関係なく、勝手に焦ってしまうものです。僕自身、妻から直接的に焦る原因となるような、
「いつになったら治るのか」
「いつになったら働くのか」
といったことを言われたことはありません。
しかし、同じ空間で生活を送るからこそ、当事者(患者)にとってパートナーは焦りを感じる対象になってしまいがちです。そういった場合の対処法を知っていれば、うつ病患者とパートナーどちらにとっても良い情報だと思い、精神科医に聞いてみました。
うつ病患者とパートナーはそれぞれの立場で、どのように対処すればよいでしょうか?
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<精神科医による回答>
当然のことながら、焦れば早く治るというものではありません。可能な範囲でストレスを軽減して、必要に応じて服薬を継続することが、結局は近道です。この点を、パートナーの方にもよく理解していただき、対応していただくことが望ましいです。
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うつ病の治療法は、休養をベースに「環境の調整」「薬による治療」「心理的な治療」の3本柱があります。仕事や金銭面などさまざまな事情により、満足いく治療をすべて続けていくのは難しいかもしれませんが、回答にあるとおり、可能な範囲での継続が治療の近道となります。
「結婚しているのだから、1日でも早くうつ病を治さないと」
「男のくせに、なんて情けないんだ」
「でも、良くならない。何でなんだろう、どうすればいいんだろう」
うつ病の診断を受け休職したばかりの頃、こんなことをしょっちゅう頭のなかでグルグルと考えていました。うつ病のことをまるで理解しておらず、うつ病の症状として自分を責め強い不安や焦りを感じてしまうことを知らなかったこともあり、とても苦しい時間でした。
うつ病は、症状や状態が波のように行ったり来たりを繰り返す場合があります。焦りから、体調の具合をそのたび一喜一憂し、お互いに疲れてしまう負のスパイラルに陥ることもあるでしょう。
回答の冒頭「焦れば早く治るというものではありません」は、患者はもちろん、パートナーの方にも知って欲しい言葉です。
何がストレスかパートナーに伝え、可能なかぎりストレスを軽減する。一時的な避難も検討する。
Q3.日常生活で苦痛を感じた場合の対処法は?
うつ病の症状のせいで、同じ家・部屋でパートナーが普通の生活を送る行動が、苦痛に感じる場面があると思います。結婚生活は同じ家で多くの時間を一緒に過ごすスタイルの割合が高いので、家のなかで安心した休息期間とするため聞いてみました。
たとえば、僕が苦しく感じたのは、「テレビの音・映像」でした。
もともとテレビが大好きでしょっちゅう観ていたのに、うつ病になってしばらくすると、それまで気にならなかった、むしろ好きな番組が、観ているだけで胸に突き刺さるような感覚になり苦しくなりました。
具体的にいうと、バラエティ番組のワイワイガヤガヤした音や笑い声、アクション映画の爆発シーンといった派手な映像がダメでした。ただ、テレビ全般が苦しいわけでなく、穏やかなBGMやトーンが平坦なニュース番組などは平気な場合が多かったです。
妻が普通にテレビを観ているなか、苦しくなることが多く、そのたびに僕は「ダメだぁ」と言い残して、テレビの音が届かない別部屋の寝室に避難して、落ち着くまで布団のなかに入るようになりました。
このように、日常生活で苦痛を感じるようになった場面で、どのような対応策があるのでしょうか?
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<精神科医による回答>
どのような物音がストレスとなるのかをパートナーにも伝え、可能な範囲でそのストレスを軽減してもらうといいでしょう。
パートナーの方に可能な範囲で物音を減らしてもらってもストレスを感じる場合、また避けられない物音にストレスを感じる場合には、別居を含めて、本人が一時的にその場を離れることを検討してもいいかもしれません。
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うつ病には、病気以前には考えられなかったような身体症状が起こる場合があります。それがとても些細なことだと、パートナーが気づかず、知らず知らずのうちに患者が苦痛を感じていることがあります。
回答は例に挙げた僕が苦しくなったテレビへの対処法でしたが、他にも日常で感じる苦痛は人それぞれあると思います。また苦痛を感じるポイントは、もしかしたら時期によって変化するかもしれません。可能ならば当事者の方が自分でストレスから避けてもらいましょう。
同じ症状が最初から最後まで続くとは限らないので、パートナーの方も定期的に認識をアップデートしながら、協力できることがあれば歩み寄って、ストレスの軽減につながればよいでしょう。
パートナーにうつ病を理解してもらいたい場合、、医師に説明してもらうことも可能
Q4.体調が悪い時期、パートナーにうつ病を理解してもらうには?
うつ病の状態によっては、「長い話ができない」「いまの感情や症状を言葉にできず、相手に伝えられない」といった場合もあると思います。すると、パートナーも、説明がないため「夫(妻)がどういう状態か、治ってきているのか、それを聞いてもいいのかがわからない」となってしまいます。結婚生活が安心した休息期間になるためには大事なポイントだと思い、聞いてみました。
僕はうつ病以前からもともと自分に関するネガティブな内容をひとに話すのが苦手ということもあり、妻にはうつ病についての症状や状態を説明することをほとんどしませんでした。およそ1年半の療養期間のうち妻にうつ病の話をしたのは、本当にごくわずかな時間・回数でした。きっと彼女は、僕がどういう状態だったか、うつ病がどういう病気なのか、理解や共感ができず時間が過ぎていたと思います。いまにして妻の立場で想像すると、本人から病気の説明は一切なく、どう接したらいいのかもわからず、本当に悩み、困っていたことでしょう。
当時は自分の状態(例えば、気づくと手がプルプルと震えたり、朝起きると異常な量の寝汗をかいていたり、といった出来事)を気持ち悪いものと感じ、説明するという発想にはなりませんでした。また、うつ病の症状の話をすることで「まだ治らないの?」と思われてしまうのが怖く、余計に自分から話す気になれませんでした。
「具合が悪い」「つらい」という感情を人に理解してもらえるように、言葉を選び口にするという発想・工夫もできませんでした。いまなら当時を思い出して多少は人に理解してもらえるよう考えながら言葉を選べますが、それは余裕があって落ち着いているからできることだと思います。
普段からいろいろな話をしている夫婦でも、うつ病の症状が悪化するとどうしてもコミュニケーションの量と質が落ちて、当事者とパートナーがお互いに困ってしまいます。
お互いのためになる重要な情報共有方法として、どのような対応策があるのでしょうか?
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<精神科医による回答>
ご本人がご自身の状態について伝えられないほどの状態であれば、主治医に時間をとってもらい、その状態をお聞きするのがいいでしょう。
短時間の相談であれば、ご本人の受診に同行して診察後に相談することが可能だと思います。ある程度の時間をとってゆっくりと相談したいようであれば、あらかじめ連絡しておくといいでしょう。
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先にあった「Q2. パートナーに対して感じる焦りへの対処法は?」と「Q3.日常生活で苦痛を感じた場合の対処法は?」の回答でも、「パートナーもうつ病を理解するため伝えること」がキーワードとなっていました。しかし、そもそも必要なコミュニケーションがとれるとは限りません。
回答にもあるとおり、同行して通院先の主治医から説明を受けるという対処法は、きっとパートナーの方にとっても安心や心強さを感じたり、暗中模索感が晴れたりする効果があると思います。パートナー・患者ともに、検討してみてはいかがでしょうか。
うつ病を抱えながらの結婚生活がうつ病治療のデメリットではなくメリットとするため、生活を調整しましょう
結婚は、新しい人生の幕開けともいえる華やかで幸せな出来事と僕は思っていますが、冒頭にもお話したとおりうつ病による休職中に結婚をしたため、あまりそういった実感を持てずにいました。
結婚したにもかかわらず、働かず、朝に出勤した妻が閉めたドアの音を聞きながら、夕方までほとんどの時間を布団のなかで過ごす毎日。そんな自分に対する失望感と情けなさ、そして周囲の人たちへの罪悪感と申し訳ない気持ちを感じていました。思い返すと、結婚している状況自体にしんどさを感じていたのかもしれません。
しかし、もし当時ひとり暮らしをしていたら、自分がどうなっていたのか想像がつきません。きっと昼夜逆転と不規則な睡眠時間で、ライフサイクルは大きく乱れ、人との会話などの気晴らしがない毎日になっていたはずです。
一時的に実家に戻り休んでいたころ、家族には、まるで「予定がない日の休日」のように、ただ家のなかでゴロゴロとするだけの時間を過ごさせてもらいました。それは、実家で生活していた学生のころとなにも変わらない、懐かしい普通の生活でした。
昼間から夕方にかけて、自分の部屋でただ横になっている時間が多かったですが、「部屋で何をしているのか」といった質問や詮索はありませんでした。
食事中に「これ美味しいね」と言いながら、テレビを眺めながら「あらやだ、大変ね〜」とボヤく母親。
調子の良い日はたまに公立図書館へ行きましたが、「へ〜、そう。気をつけてね〜」と見送られ、帰ってきても何を借りたのか、疲れなかったかなど質問はなく、「昔と変わってなかったでしょ」といった対応。
家族にもらった、ちょっとした気遣いの積み重ねが一切なかったら、もっと苦しみが増し治療期間も延びていたかもしれません。
パートナーの方は、うつ病になってしまった当事者の方を見て、驚いたりショックを感じたり悲しくなると思います。
「こんな人じゃなかった」
「こんなはずじゃなかった」
しかし、その変化は、すべてうつ病の症状によるものです。
症状の度合いによって、治るまで一定期間必要な病気ですが、うつ病はだれもが最終的には必ず治る病気です。うつ病が治れば、症状はなくなり元に戻ります。
「Q1.うつ病患者にとって、結婚のメリット・デメリットは?」の回答にもあった通り、うつ病に対する結婚のメリット・デメリットは一概に言えることではありません。お互いの状況に沿って、その都度お二人に適したコミュニケーションや関係性を調整してもらえればと思います。
今回の記事で、どうすればうつ病を治すため安心して休息できる夫婦生活を送っていけるかヒントになれば幸いです。

<執筆者プロフィール>
宮原直孝
一般社団法人いっぱんじん連合 代表理事
1984年 長野生まれ。
会社員時代の09年 7月頃〜11年1月頃までうつ病により休職、その後退職。
転職活動がうまくいかない現実逃避から何となく勢いで当法人を設立。
ストレス解消を目的の一環に、
・深夜帯に東京都内を集団でのんびりダラダラと歩く「深夜徘徊イベント」
・東京で深夜徘徊したい方同士を紹介、仲介する無料マッチングサービス「深夜徘徊.match」
などの運営を行う。
抱えている柴犬は、よく出来ていますが木彫りです。