一面に広がる海の画像と共にこんにちは、元うつ病ライターの宮原です。今回はうつ病当事者の方に「休むこと」について視野も広げて頂く一考にして頂きつつ、僕がこれまでの人生で感じたことのないレベルの安らぎを実感した提案をこっそりとお伝えしたいと思います。
なぜこっそりかと言うと、うつ病ではない方にはなかなか理解が難しい話だと思うからです。それは、「うつ病の人だって海外旅行に行ってもいいんじゃないでしょうか?」ということです。
グアム、最高でした
先日、10年ぶりに海外旅行に行ってきました。行き先は、常夏の楽園ことグアムでした。
成田空港から4時間弱の飛行時間で到着しましたが、グアム国際空港から一歩出た瞬間さんさんと降り注ぐ太陽の日差し、そして時折スコールのように雨が降ってもすぐにカラッと服や髪も乾いてしまうような暖かな気候が出迎えてくれました。
どこまでも広がる空には、日本でなら真夏にしか見ないような雲が悠々と浮かんでいます。そして、何よりも特筆すべきなのは、透明・エメラルドグリーン・ブルーと、深さによってグラデーションがかって変化する綺麗な海。
一言でいうと『グアム、最高ゥ!!』だったのですが、なぜうつ病と結びつけたのかというと、滞在中に「ココス島」という離島に訪れた時に次のようなことを感じたからです。
これまで感じたことのない、解放感
「ココス島」とはグアムの南端から2〜3kmほど離れた場所にあり、長さが2,000mで幅は200m弱ほど、島をグルっと一周するのも徒歩で問題ないような大きさの島です。
グアム島の最寄りの船着き場から定期船に乗り僅か15分ほどで移動できるのですが、ただでさえ青くキラキラとした海が、ココス島に近づくと、更に澄み切ったエメラルドグリーンに変わっていきました。
島内はシンプルに白いサンゴ礁のビーチと熱帯植物が覆い茂っているだけで、観光客は各自、ビーチで日光浴、木々の合間をのんびりと散策、泳いだりバナナボートに乗ったりダイビングするなど浜辺でアクティブに遊んだりと、思い思いに過ごしていました。朝一番からお昼過ぎまでという半日ほどのココス島での滞在時間でしたが、僕は何度か自然と呟いていた言葉がありました。
それは、
『なんて自由なんだろう』
です。
僕の出身地は、山々に囲まれ海が無い長野県です。また、僕自身インターネット大好き・お家大好きな出不精なので、今までこんな場所に来たことがありませんでした。
また、正直なことを言うと、僕はずっとリゾート地だとかアウトドアというものに対して勝手に苦手意識を持っていたので、避けていた面もあります。そういった場所や遊びに対して「ウェイウェイしたリア充やアクティブな人たちが楽しむもの」という、殆ど偏見のようなイメージを持っていたのです。
ところが実際自分が行ってみたら、わずか数時間なのに、これまでの人生で感じたことのないレベルの解放感や休息感を実感していました。帰る時間となりココス島から再び船でグアム島に戻っている最中、船から海を眺めつつ、素朴かつ本心で次のように思いました。
「うつ病だったころ、ここに暫くいれたら、すごく休めたんじゃないかなぁ」
うつ病を治療するうえで大事な「環境調整」
僕は以前、1年半ほどの期間うつ病で療養していました。その殆どは当時住んでいた埼玉の自宅で横になっていたのですが、主治医との相談もしたうえで終盤の3ヶ月ほどは長野県の実家に戻り、休んでいました。
その実家での3カ月間は、今振り返っても、かなりの「休めている感」がありました。回復期であり、そもそも症状が和らぎ安定してきていたのもあるでしょうが、その他に次の要因があったと思います。
1:家族の理解があり、滞在にストレスが少なく存分に休める環境
2:埼玉と比較すると人が少なく、実家周辺の生活音も静か
といったところでしょうか。
以前、うつ病に効果的な治療の3本柱を紹介しましたが、その一つに「環境の調整」というものがありました。(「うつ病治療の三本柱その③環境の調整」)
簡単に言うと、ストレスを減らし心身が休まるように、場所などの生活環境や人間関係に変化を加えることです。
僕の場合は結果的に、先ほどの実家帰省が良い環境調整になっていたということでしょう。
心休まる場所は、人それぞれ
しかし、今になって思うのは「必ずしも、実家や自宅で休むことが大事なのでは無いんじゃないか?」ということです。
僕はたまたま結果的に実家が良い環境でしたが、人によってはそうとは限りませんよね。家族のうつ病に対しての理解が進まず落ち着いて休めない場合も十分あると思います。
大事なのは、あなたが休まること。自宅に閉じこもることではありません。
もっと選択肢を広げてみると、今いる場所よりもあなたが本当に休める場所が他にもあるのではないでしょうか?休める場所は人それぞれなのではないでしょうか?
基本的には外出はおろか起き上がることもままならないうつ病ですが、治療の進み具合や症状のタイミングによっては例えば次のような選択肢なら可能という方もいるのではないでしょうか?
・郊外や他地域に住む親族や友人宅
・少ない労力で行ける最寄りの温泉地
・だだっぴろい草っ原のある公園
グアムの話も、そんな選択肢の可能性の1つとしてお話をさせて頂きました。
「グアム案」の精神科医と弁護士の見解はこうだった
現実問題として、実際にうつ病の方が海外旅行に行くというのは次のような点が懸念されるのは想像がつきます。
・金銭的な問題で、海外なんて行けない
・会社を休んで働いていない状態なのに、気持ち的にそんな行動は難しい
・そもそも、症状や体力の面で、飛行機乗って海外なんて行けない。手続きなどを進めるのも不可能
健康な状態であればただ楽しいだけの旅行も、うつ病の場合ではとてもとても大きなストレス・負担がかかります。当人のなかで様々な心配も生まれます。なので、周囲から安易に提案すべきではないのは前提にあります。
そこで、治療の観点から医師の方に、労働法の観点から弁護士の方に意見を伺ったところ、次のような回答を頂けました。
まずは、医師の方からご覧下さい。
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古典的なうつ病(典型的には過労を誘因として発病し、自分を責める気持ちが強い)の場合には、治療上の視点から言えば、楽しめて気分転換になりそうだと自分自身で思えるようであれば行っていただくといいと思います。
ただし、旅行に行って楽しめそうということであれば、うつ病としてはかなり回復した状態で、仕事をしていて休職中の方であれば、復職を検討してもいい段階です。
一方、気分転換のために頑張って旅行に行かなければ、と思うようであれば、まだうつ病の重症の状態です。旅行を含めて、頑張って何かをすることは避けた方がいいでしょう。
(いわゆる「新型のうつ病(典型的には人間関係上のストレスを誘因として発病し、他人を責める気持ちが強い)」の場合には、気分転換による治療上の効果は大きくないかもしれませんが、旅行に行って気分転換になりそうであれば行っていただいて構わないと思います)
ただし、仕事や家事、勉強などの本来すべきことができずに療養をしている方が旅行に行くことについては、一般的に、他人には理解してもらえません。気分転換が目的とはいえ、あまり口外しない方がいいかと思います。
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続いては、弁護士のご意見です。
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法律上,休職中の労働者の義務について定めるものはありません。そこで原則として,休職中に旅行に行ってもかまわないということになります。
休職は,通常,病気そのた何らかの事情で勤務することができないような状態になったときに認められるものですが,労働契約は継続していますので,就業規則などに休職中の義務の定めがあるかどうかなどよく確認してください。
もし義務の定めがあれば,当該義務を履行するように行動しなくてはなりません。
義務の定めがないとしても,一般には「病気なのに海外旅行に行くことはできるのか」という考え方があります。そこで,会社に報告せずに旅行して,後から発覚した場合に,本当にうつ病だったのかなどと疑いの目を向けられて,トラブルになる可能性もあります。
疑いの目を向けられ,トラブルになったら,就業規則の服務規律の定めにひっかけて,懲戒処分などをされるおそれも出てきます。
原則として休職中に旅行に行ってもかまわないとはいえ,必ずしも法律問題にならないとは言い切れません。そこで,休職中に海外旅行などに出かける場合には,事前に,旅行先や旅行期間,旅行中の連絡先,療養目的であることなどを会社に連絡をしておくことがよいでしょう。医師の診断書なども添付すると,理解も得られやすいかと思います。
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治療的にも労働法的にもうつ病中の旅行は原則として問題ないという事でしたが、両者の方が最後に共通して仰っていたのが、「他人の理解」という点です。以上のことも参考にして頂きつつ、休養中の選択肢のご参考にして頂ければと思います。
うつ病において『休む』というのは、簡単なようで難しい問題です。周りの方はもちろんのこと、うつ病の当人であっても、何が休息となるのか一見してわかりませんし、理解が及ばない場合もあるでしょう。しかし、乱暴な言い方をすれば、周りの人には、すぐには理解してもらわなくてもいいと思います。
繰り返しになりますが、あなたの心と身体が休まること。それが最優先事項だからです。
「休む」ということへの視野と選択肢を広げる象徴として今回グアムの話をさせて頂きました。

<執筆者プロフィール>
宮原直孝
一般社団法人いっぱんじん連合 代表理事
1984年 長野生まれ。
会社員時代の09年 7月頃〜11年1月頃までうつ病により休職、その後退職。
転職活動がうまくいかない現実逃避から何となく勢いで当法人を設立。
現在はヘラヘラしながら、
・深夜に都内を集団で歩く「深夜徘徊イベント」
・ただダラダラとダベるだけの「ダベPartner活動」
・出来る事であれば何でもする「代表デリバリーサービス 〜心が弱った時に、都合の良い男〜」
などを行う。
抱えている柴犬は、よく出来ていますが木彫りです。